だからなんなんだよ。

何処か居た堪れない心持ちを抱えて暮らす中年の戯言。

AIに期待する未来

シンギュラリティを心持ちにしている。

 

天気の良い日である程に、憂鬱な気持ちが増すばかりのお馴染みの通勤路を歩く。

 

誰がやっても結果は同じであろう作業を行う為に、空は雲一つ無く晴れ渡っている訳では無かろうに。

 

そんな事を思いながら、見慣れた工場をとぼとぼと自分の持ち場に向けて歩く。

 

今にも発狂して、工場に背を向けて知らない何処かへ駆け出してしまいたい衝動を抑え付けながらも、家族の顔と生活の事を想い、自我を必死に保つ。

 

来る日も来る日も同じ様な思考を繰り返して、同じ場所に通い、同じ作業を繰り返し、最後にはストロングゼロを飲んで、明日も同じ一日を繰り返す事に思いを馳せては絶望する。

 

そんな毎日にうんざりしながら、職場の戸を開け詰所に入ると、其処には何時もの下らない馬鹿話や、仕事の段取りを話し合っている雰囲気とは打って変わって、昨日まで自分達の日常であった職業を一夜にしてAIに奪われて、そこに居る全員が、成す術もなく呆然自失となっている光景が広がっていた。

 

誰が何をする必要も無く、これまでに日々の業務の中で培われたデータを基に、全ての設備や機械が自律し、不平不満や愚痴も言わず、休憩も、休息も、交代も必要とせずに、黙々と最大効率で作業を進めている。

 

怠惰で、権利の主張が激しい癖に、生産効率の悪い、我々人間の労働者は、いきなりお払い箱となった。

 

幾許かの纏まった金銭を補償され、誰がやっても同じと思い、忌まわしく感じていた苦役から、我々労働者は唐突に解放された。

 

あまりの呆気なさに工場を後にした私は、取り敢えずコンビニでストロングゼロを数本購入し、海岸沿いに移動して、岸壁のテトラポットの上に腰掛けて、煙草に火を付け、ちびちびと酒を飲みながら、昨日まで内側に居たはずの工場を、外側から眺め見る。

 

確かに昨日まではそこで働いていた数千人の人間が、一斉に解放されたにも関わらず、何事も無かったかの如く、無数の巨大な煙突から相変わらず煙が立ち上がり、工場は今も操業を続けている。

 

自分の今後については一旦置いておくとして、あれ程憎んでいた苦役から解放された筈であるのに、無人で動き続ける工場を離れた場所から眺めていると、無性に寂しい様な、悔しい様な、かと思えば清々した様な、何とも言えない複雑な感情に襲われる。

 

ぽっかりと胸に穴が空いた様な空虚感に、今にも発狂して、何処かへ駆け出したい衝動に駆られるも、その衝動を阻む、私の時間と身体を拘束する仕事は、最早私を縛る事が無い。

 

あれ程欲しかった自由である訳だが、身を解かれてその自由を手にした瞬間、その自由を持て余して、それに押し潰されそうになっている自分が居て、我ながら大した奴隷根性であると感心して苦笑する。

 

ストロングゼロを飲み干し、おもむろにテトラポットの上で立ち上がり、水平線を眺める。

 

ここから水平線に向かって飛び込めば、或いは本当の意味で自由になれる様な気がした。

 

ふと気が付けば、私は見慣れた持ち場への道のりを、いつもの様にとぼとぼと力無く歩いていた。

 

どうやら現実はまだ、怠惰で、権利の主張が激しい癖に、生産効率の悪い、我々人間が機械や設備を操作して、工場を操業している様である。

 

私は今にも発狂して、工場に背を向けて知らない何処かへ駆け出してしまいたい衝動を抑え付けながらも、目の前に現れた職場の扉を開けて、今日も一日、いつもと同じ、誰がやっても結果は同じであろう作業に、うんざりしながら向き合うのである。

 

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